超高速赤外プラズモニクス
Waveform
金属のナノ構造には自由電子の集団振動の共鳴モードが存在し、これを局在表面プラズモン(Localized Surface Plasmon: LSP)と呼びます。LSPを光電場で共鳴励起すると、ナノ構造の表面近傍に著しく増強された電場が発生することが知られています。私たちは、赤外光に共鳴する構造としてナノロッドに注目しました。左下の図は波長5μm、時間幅100fsのパルス電場を金ナノロッドアレイに入射させた時に生じる近接場の時間波形です。このように、近接場は入射場に比べて50倍以上の振幅を持ち、時間幅もほとんど変わらないことがわかります。私たちはこの増強近接場を利用した、超高速赤外分光計測の高感度化を目指しています。

  1. F. Kusa and S. Ashihara, “Spectral Response of Localized Surface Plasmon in Resonance with Mid-Infrared Light,” J. Appl. Phys. Vol. 116, 153103 (2014).
  2. 芦原聡, 草史野, “金属ナノ構造による中赤外域の電場増強効果,” レーザー研究 Vol. 43, No. 5, pp. 309-313 (2015).
  3. F. Kusa, I. Morichika, A, Takegami, S. Ashihara, “Enhanced ultrafast infrared spectroscopy using coupled nanoantenna arrays,” Opt. Express Vol. 25, 12896 (2017).
アンテナ−分子結合を利用した表面増強分光
金属ナノ構造の増強近接場中に分子が存在すると、金属ナノ構造のLSPモードと分子振動モードが互いの近接場を介して相互作用します。その結果、金属ナノ構造の消衰スペクトルに分子の赤外吸収を反映した変調が現れ、生の吸収に比べると増大することが知られています。この現象は、表面増強赤外吸収(Surface-Enhanced Infrared Absorption: SEIRA)と呼ばれています。
Antenna-molecule

  1. I. Morichika, F, Kusa, A, Takegami, A. Sakurai, S. Ashihara, “Antenna-enhanced nonlinear infrared spectroscopy in reflection geometry,” J. Phys. Chem. C Vol. 121, 11643 (2017).
赤外共鳴ナノロッドアレイを用いた表面増強超高速分光
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赤外ポンプ・プローブ分光法や二次元赤外分光法は、生体分子の立体構造や機能発現ダイナミクスなどに関する重要な知見を与えてくれますが、感度に乏しいためにその適用範囲は制限されていました。私たちは赤外共鳴ナノロッドアレイを用いることで、これら非線形分光の超高感度化が可能であることを実証しました。個々のナノロッドのLSP共鳴に加え、ナノロッド同士の強め合い(集団的共鳴)条件を満足する周期アレイ構造を用いてポンプ・プローブ分光測定を行い、6-7桁にも及ぶ信号増強を達成しました。この手法を使えば、単分子膜や少量分子を対象とする計測や、小型の光源を使った計測が可能になると期待されます。

  1. F. Kusa, I. Morichika, A, Takegami, S. Ashihara, “Enhanced ultrafast infrared spectroscopy using coupled nanoantenna arrays,” Opt. Express Vol. 25, 12896 (2017).
  2. I. Morichika, F, Kusa, A, Takegami, A. Sakurai, S. Ashihara, “Antenna-enhanced nonlinear infrared spectroscopy in reflection geometry,” J. Phys. Chem. C Vol. 121, 11643 (2017).
赤外単色光を用いた近接場光学顕微鏡(IR s-SNOM)
SNOM原理
赤外分光の顕微測定ができれば、生体細胞内部の分子イメージングや、結晶欠陥イメージング、金属ナノ構造体のプラズモン電場の観測、ナノ空間に閉じ込められた液体分子の振る舞いの観測などが可能になると期待できる。私たちは、ナノメートルオーダーの空間分解能をもつ赤外分光計測システムの開発へ向け、その基礎となる「散乱型走査型近接場光学顕微鏡(s-SNOM)」の開発を進めています。尖鋭な探針と試料の間から生じる散乱光を検出することにより、探針の先端径程度の空間分解能が得られると期待されます。