強電場現象 〜 光の波形を測るアンテナ 〜

東大駒場リサーチキャンパス公開2021にて、芦原研究室のオンラインツアーを企画しています。是非ご参加ください!
■ 6月11日(金)15:00〜
https://www.komaba-oh.jp/2021/events/ashihara-lab-onlinetour_1
■ 6月12日(土)14:00〜
https://www.komaba-oh.jp/2021/events/ashihara-lab-onlinetour_2

我々の身の回りは、音波・電波など、いろんな「波」であふれています。実は「波を測る」ことは、我々の生活を強く支えている技術の1つです。

さて、光も電磁波という波の一種です。しかし今現在、光を測る技術は確立されていません。
そこで、芦原研究室では光の波形を測る手法の開発に取り組んでいます。このパートでは、光を測る難しさと、解決へのアイデアについて紹介します。

「波を測る」とはどういうことか?

このパートでは、音波や電波がどのように測られているかを解説します。

まず、音波について見てみましょう。音波とは空気の振動です。従って、空気の振動を測ることで、音波は測れるわけです。
では、マイクの仕組みを説明します。マイクはコイルのついた振動板と磁石からなります。振動板は空気の振動に応じて動きます。するとコイルが振動し、誘導起電力が生じます。このようにして、音波は電気信号へと変換されます。

次に、電波について見てみましょう。電波とは、電場と磁場が振動する波です。ここでは、電場の振動を測る素子を例に挙げます。
電波がアンテナに入射すると、電場の振動により金属中の自由電子が振動します。この電子の振動は、そのまま電流として計測できます。スマートフォンやテレビといった機器は、このような仕組み通信しています。

図1.音波を測る仕組み (ダイナミックマイク)
図2.電波を測る仕組み (ダイポールアンテナ)

さて、ここで注目して頂きたいのは、両者に以下のような共通点があることです。

 1.波の振動に追従するものがある (マイクなら振動板、アンテナなら自由電子)
 2.電気信号へと変換される

この二点が「波を測る」のに必要なことなのです。

光の波形は測れない?

光も電波と同じ電磁波という波に分類されます (その違いは周波数だけです)。では電波と同じように、光の波形も測れないのでしょうか?
実は、光の波形は簡単には測れません。その原因は、光の振動数にあります。

図3.電波と光の振動数

前章でお話した通り、光の振動に追従するものがないと、光の波形は測れないのでした。しかし光は、数百 THz =1秒間に100兆回以上も振動します。実際この振動数は、大抵の物理現象が追従できないほど高速です。そのため、波を測るために必要な「振動に追従する」ことを達成すること自体が難しいのです。

このため、非常に高い光周波数に追いつき電気信号に変換できるような現象が必要となります。

光誘起トンネル電子放出 (光電界電子放出)

そこで我々が注目している現象が、光誘起トンネル電子放出 (光電界電子放出) です。この現象は金属に強いレーザー光を入射すると生じる、特殊な電子放出現象です。ここでは簡単に原理を紹介し、なぜ光の波形を測るのに使えるかを説明します。

まずは、金属中の電子の性質について簡単に述べます。金属中には自由電子が存在し、原子核の正電荷のクーロン力により、金属中に引き寄せられています。このため、金属から電子を取り出すには、光を当てる・高温にするなど、物質に何らかの作用を施す必要があります。

では、強いレーザー光を入射すると、どのようにして電子放出が起きるでしょうか?光は電場と磁場からなる波でした。このため強いレーザー光は、強い電場を有します。この強い電場は、自由電子を強く引っ張ります。すると、原子核のクーロン力を振り切ることができ、電子が放出します。
実は、この際の電子放出メカニズムは、興味深い量子力学の性質である、トンネル効果によるものなのです。そのため、この現象を光誘起トンネル電子放出と呼びます。

図4. トンネル電流の様子

では、なぜこの現象は光の波形を測ることができるのでしょうか?実は、トンネル放出は 100兆 〜 1京分の1秒と、非常に早い反応速度を示します。このため放出される電子は、光の高い周波数に十分追従することができます。つまりこの際の放出電流は、先述の「振動に追いつく」「電気信号に変換する」を達成するものなのです!

我々は、光誘起トンネル電子放出を用いることで、光の波形を測れるデバイスや、超高速エレクトロニクスの先駆けとなるものの作製を目指しています。

リンク

芦原研究室の研究紹介ページ

参考文献
  1. 新井 滉,岡崎 大樹,森近 一貴,芦原 聡
    金ナノ構造からの電子放出を用いた光電場計測素子の開発 II
    第68回応用物理学会春季学術講演会, 19a-Z06-4 (オンライン開催, 2021.03.19).

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